セフィラを守る為シーハーツ王国の聖地である聖殿カナンへと向かうことになり、

少しばかり戦力に不安を覚えたフェイト達はサーフェリオへと向かう草原の中で、鳥の姿をしたモンスターたちをただひたすら蹴散らしていた。



その後、ペターニへと戻った一行は、
今度はファクトリーに籠もり、細工や鍛冶といった戦力の強化を図った。


早いところカナンの深部へと向かいたいネルは焦れて、マリアとアイテムの買出しへと行ってしまった。

ファクトリーには、フェイトとクリフだけが残った。




「…なあ、クリフ」
鑢で最後の仕上げをしながら、フェイトが話しかける。
適度に細工をサボりつつも、そんな様子を頼もしげに眺めていたクリフは視線だけを寄越した。

手の中で鈍く輝くリングに息を吹きかけ、うん、と頷いてから、

フェイトはおもむろに口を開いた。

「サンマイト草原で、僕ら、何回戦ったと思う?」

何を唐突に、
と思いながらも、クリフは適当に答えた。

「100はいってねぇだろ」

「68回だ」

頬杖をついたフェイトは、視線を机に落とした。

「そのうち、お前がヒーリングを使ったのは7回」

「よく見てんなぁ」

本当に良く見ている、というか暇人か。
まあ、それだけ戦闘中でも自分を気にしているということだ、とクリフは悦に入る。


フェイトは憮然としたまま、目の前の男を軽く睨んだ。

「そのヒーリングは、全部ネルさんにだったな」


確かにそうだった、と、
男は自分の行動を振り返る。

クリフの放つ回復魔法など微々たるものなのだが、
ネルは四方を敵に囲まれているし、フェイトはその一角を崩すことに必死だった。

エリアル・レイドを放とうとして、少し間合いをとった場所に居た自分がヒーリングを使ったのだ。

「ネルさんは大事な仲間なんだ。
 回復魔法を使うのも当然なんだよな。
 …でも」

だんだんに声が細くなる。
フェイトは工具を置き、立ち上がった。
そして、ちいさく首を振り、まっすぐにクリフを見た。


「一度宿屋に戻ろう。
 それから、カナンへ向かおう」


「オイ、言いたいことはそんだけか?」


思っていることを上手く言葉にしようとして、自己嫌悪に陥り、結局言うのをやめてしまう。
フェイトの悪い癖だ。

「それだけってことはない、けど…
 うまく言えない。ごめん」

エメラルド色の目が泳ぐ。

「フェイト」

思わず立ち上がり、詰め寄っていた。
体躯が落とす影に、フェイトが覆い隠される。


「……、だよ」


悔しそうに俯いたフェイトの声を、いったんは聞き逃した。

華奢な体を引き寄せ、艶やかな髪を撫でる。

そうして、無言でもう一度言うよう促す。




「ネルさんに、嫉妬、したんだ」


自分の中のそんな気持ちに嫌悪しているのだろう。
フェイトが身を震わす。

「ごめん…、こんな、気持ち悪いよな」

長い睫毛が、涙の露で濡れていた。

「そんなことねぇって」

そのまま押し倒してしまいそうな衝動を堪えて、
少しだけ腕に力を込める。


それは否定ではなくて、肯定だ。



生真面目であまのじゃくなこの少年に、少しずつ教えていく必要があるだろう。
自分の気持ちを。

任務から始まったとはいえ、
確かに心の中に満ちて離れないものを。


「…お前は強い、攻撃に於いても防御に於いても、な」

一言一言、あやすように。

「だからって、ほったらかしにしてるってわけじゃねえんだ」

「…うん」

いつになく素直な少年は、前髪を揺らして頷く。

「普通の戦闘じゃ、お前の敵になるやつなんざいねぇよ。
 信頼してるんだ、お前を」

信頼、という言葉にアクセントを置く。

「ただな」

「お前は知らねぇみたいだから言っとくけどよ。
 お前が見てる以上に、俺はお前を見てるんだぜ」

ビク、と、小さな肩が震えた。

おおかた、自分ばかりを目で追っていることに気づかれていたのが恥ずかしいのだろう。

クリフは口の端で笑い「だから、お前がピンチの時は必ず守ってやる」と囁いた。
勿論、耳元に唇を寄せて。


真っ赤になった少年を逃がしてやると、
クリフはファクトリーの扉を開いた。

「戻ろうぜ。ネルもマリアも、痺れを切らして待ってるだろうしよ」

先ほどの吐息がかかったままの耳に手をやり、
フェイトはそのあとに続いた。










一つ前の日記で妄想育ててきますと言ってきて
育った妄想がこれです。
クリフにヒーリング使ったあとの「サンキューな」にやられて、サポートスペルを復帰させたらば今度はネルさんにばっかり使ってさ…イジイジ。

というのから始まった妄想。すいません。
ちなみに戦闘回数なんかは適当ですので信用しないように。かなり戦ってたとは思いますが。

ちょっとクリフ視点になってたかも。

7月1日の日記にUPしたものです。

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