クリフはお酒が好きだ。

うわばみ、と言う言葉がしっくりくるかもしれない。

かといって、絡み酒になるわけでもなく。

楽しく呑んでいるみたいだから、それは良いことなんだろう。




あの戦いのさなか、クリフを見つけるのは容易かった。

大抵なら、酒場に居る。

かっくらっているときもあるし、雰囲気を楽しみながら静かに飲んでいるときもある。

そういう姿を遠目で見ると、様になるというか…大人だな、と思う。


僕だって、もうすぐ地球で言うところの『成人』の年齢になるのだから、

クリフと肩を並べて呑むのもいいな、と、思ったりして。


この家の持ち主で、僕の恋人でもある男の顔を思い浮かべる。
その男は会議に出席していて、いまは不在だった。


自信に満ちていて、大胆…というか大雑把で。
その癖、僕のことになると、時々繊細な表情を見せる。

どんな表情も好きで、いつまでも見ていたいのだけど、
それを言うのは恥ずかしいから言わない。

でも、つい視線で追ってしまうことに、
クリフは気づいていて。



(そういや、地球のお酒なんて知らないんだろうな)

僕は、悪戯を思いついた子供のように笑った。

物珍しくて、良いかもしれない。



思い立ったらもう体が動いていた。

柔らかな二人がけのソファから立ち上がり、
必要なものだけを選び、ポケットにねじ込む。

星間はかなり離れているが、一日で帰ってこれない距離ではないだろう。




『出かけてきます。今日中には戻るから。
                           フェイト』




置き手紙も用件だけで簡潔だ。

余計なことを書いてしまっては、この悪戯心がばれてしまうかもしれない。
何せ、あいつは勘の良い男だから。




合鍵はひとつずつ持っているから、閉めていっても問題はない。

重い扉を閉め、ノブを回して確認してから、
僕は歩き出した。









すっかり暗くなった街路を歩きながら、
僕は手に提げた紙袋に視線を落とした。

かちゃかちゃと、ガラス瓶のぶつかる音がする。

今夜は疲れて帰ってきているだろうから、
二人で呑むとしたら明日の晩のほうがいいかな。

呑んだ後に、確実になだれ込むあの行為にまで想像が及んでしまって、
それを振り払うように頭を振る。



鍵を回すと、金属音が響いた。
それと同時に、中であわただしい音がする。


恐る恐るドアを開くと、
家の主が安堵の表情を浮かべていた。

「…ただいま」

あたりまえの言葉しか出てこなかった。


クリフの目が真摯を通り越して必死過ぎて、
少しだけふきだしそうになったなんて死んでも言えない。



「スゲェ、心配しちまった」
「ちっちゃな子供じゃないんだからさ、そんなに心配しなくても」

これじゃあ、どっちが子供だか分からないや。

「手紙、読んだんだろ?」
「読んでも心配なモンは心配だ」
「…そうだよな、お前は僕の保護者だもんな」

少し拗ねたような表情をしてみせると、
クリフもふっと表情を緩めた。

「単なる保護者なら、こんなことはしねぇ、だろ?」


クリフの顔が近づいてきて、
やわらかく、唇に触れる感触が暖かい。


もう何度も繰り返してきた行為だったけど、
やっぱり恥ずかしさが残る。

反射的に閉じてしまう瞳を無理矢理こじ開けて、
クリフの表情を見たいと強く思った。


薄く開いた目蓋の隙間から見えたのは、
いとおしげに細められたロイヤルブルーの瞳と、それを飾る黄金色の睫毛。


あんまりにも優しくて。
僕にしか見せないんだと思うと、泣きたいくらい嬉しくなった。




昼間きちんと整えていったはずのシーツは、
僕の手のなかでぐしゃぐしゃに乱れていた。

寝室の広いベッドが、僅かに軋んだ音を立てる。


表情も声も隠してしまいたくて、
ベッドに顔を押し付けた。
腰は高く持ち上げられていて、
クリフには見えているのだろう。なにもかも。


随分慣らされたとはいえ、受け入れるには狭すぎるようで。
湿った息とともに、舌が差し入れられる。


まだお風呂、入ってないのに…


のどもとまで出かかったその言葉は、
あまりに色気がなさ過ぎたから飲み込んだ。
謝りたいような気持ちと恥ずかしさが募る。

「フェイト」

ようやく舌からは解放されたけれど、
甘く疼いて仕方ないそこは誘うように揺れる。

「こっちを向け」

声に従い、
シーツの塊を抱えたまま体を反転させた。


高ぶっている自分自身も、クリフには見えている。
思わず膝を抱えるように足を上げると、
足首を掴まれ容赦なく開かれた。

「や、クリフ…!」
「嫌じゃねぇ」

胸元を隠すように抱いていたシーツを、
もう片方の手が引き剥がす。



「全部オレに見せろ」



もう見せてるよ。
心だって、からだだって。

でも全部見せてしまったら、
つまらなくなって飽きられちゃうかなと思う。
不安に思ったりする。



体の中に押し入ってくる感覚に、身を硬くした。

「ン、…はっ…、あぁっ!」

受け入れられていることが今でも信じられない。
激しい熱を持って、何度も突き立てられる。


「クリフ…、クリフっ」

名前を呼ぶと、頭のてっぺんから額へ、頬へ、首元へ。
クリフの唇が降りてくる。

最後に唇が合わさって、息苦しいくらいのキスに夢中になる。

何度も何度も揺さぶられて、お互いが限界を感じて達しようとするとき、

クリフが何事かささやいた。




吐息にも似たそれは、聞き取ることが出来なかったけれど。


クリフも僕と同じくらい、
不安だったり切なかったりするんだろうか。













「こりゃ酒か? 見慣れねぇ文字が書いてあるな」

酒瓶に気づいたクリフが放った第一声はそれだった。

「それを買いに地球まで行ってたんだよ」


僕はいまだベッドに横たわったままだ。
一日歩き回った体には、ちょっときつかった。


酒瓶を包んでいる白い和紙の向こうに、
「花酒 どなん」
と書かれている。


泡盛だ。
アルコール度数は60度。
普通の人間ならひっくり返るが、クリフならこの独特の酒も好みそうだと思って、だから選んだ。


もうひとつはワインで、
ルフレーヴ・シュヴァリエ・モンラッシェ。
舌を噛みそうな名前だがこれはお店の人に勧められたもの。

僕はほとんど呑めないけど、
白ワインなら癖がなくて大丈夫かもしれない。

「で、なんでわざわざ酒を買いにいったんだ?」

訝しげなクリフに、僕は笑って答える。

「一緒に呑みたいなと、思って」

ただ、今日はもう呑むなんて出来そうにないけど。
心の中で付け足すと、もう目をあけていられなくなった。

疲れて帰ってきてるはずなのに、あいつはなんでけろっとしているんだろう。




クリフも早く寝なよ、と、




声に出すことは出来なかったみたいだ…






fin

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フェイト一人称から色々変わってしまっているのは見逃してください…

難しくて(汗)

ちなみに走り書きしたメモを見る限り、酒飲み大会でもなくエロはかけらすらもなく単なるお酒にまつわる笑い話でした。

私は本当のめないので(でもちょっとなら呑めるやい!)泡盛なんかブッ倒れて終るんだろうなと思います。60度なんて死んでしまうー!
ふたつとも実在するお酒です。

エロは難しいです。
萌えの破片すらなくて本当ごめんなさい(土下座)
20050729UP


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